漠然とした生きずらさがある
経済的にものすごくひっ迫していたり、大きなトラブルに見舞われているわけでもなく、夫も子どももいて、重い病気にかかっているわけでもないのに、心が晴れず、すっきりしない気分で過ごすことが多い。
人とのコミュニケーションがいまいち上手くいかない。
どんなにがんばっても達成感がなくて、人と比べたり、自分には能力がないと感じて、こんな程度ではダメだと不安や焦燥感に駆られてしまう。モチベーションが続かない自分をメンタルが弱いんだと責めてしまう。
そんなパターンにはまってしまい、漠然とした生きづらさを抱えている人は、もしかしたら『発達性トラウマ』を抱えているかもしれません。
発達性トラウマって何?
トラウマとは、個人が対処できないような体験によって起こる心理的ストレス(心的外傷)のことをさします。
事故や事件、虐待、災害、病気などの生命の危機に明らかに晒された状態は、トラウマ体験として自覚しやすいですが、『発達性トラウマ』とは、幼少期の成長過程の中の<適切ではない育てられ方>のなかでも、引き起こす可能性があります。(育てられ方だけが原因ではありません)
適切ではない育てられ方=虐待とは違う
生きずらさを感じている多くの人は、「自分は虐待はを受けていない」と自覚しています。
食事は毎食食べていたし、着る服もあって、毎日洗濯がされていた。学校も行って、進学もして、習い事もしていた。大きな不自由はない子ども時代だった感じています。
なのに、大人になった今、イライラ、モヤモヤしたり、ザワザワ、クヨクヨして、いつも不快感や不機嫌を抱えていたり、自分に自信がなく焦燥感や無力感を感じてしまいます。
たとえ、虐待がなかったとしても、成長の中で親から(もしくは養育者から)不適切な関わりがあると、心に深い傷を負い、生きずらさを抱えてしまう可能性があるのです。
では、適切ではない育てられ方って、どんな関わりなのでしょうか。
不適切な子育ての例
・思いやりのない言葉をかける
・手をあげる
・友達関係に介入しすぎる
・好みや服に介入しすぎる
・過度に干渉する
・否定的な言動が多い
・過度に心配する
・必要なケアをしない
・無理にがんばらせる
・大人の愚痴を聞かせる
・勉強を強要する
・きょうだいを比較する
・自分の夢を子どもに過度に強いる
・子どもの夢を否定する
・学力や経済力で人を区別し、ランク付けをする
・節約、倹約の度が過ぎる
・子どもに対して嫉妬したり競争心をあらわにする
・子どもの性的な成長を喜ばない
・きょうだい間の加害行為に介入しない
これらのことが混在しながら、幼少期から長期にわたって、じわじわと生活環境の中で体験していたとしたら、発達性トラウマに発展する可能性があります。
例に挙げたことは日常的に起こりうることだし、経済的に大きな問題がない生活ができていると、家の中で不適切な子育てがあったとしても、そのことが発達性トラウマに繋がっているとは気づきにくい傾向にあります。
そして、子どもにとっては親の言動が全てだし、親に対して不満を持つこと自体に罪悪感が湧き、自分を責めてしまうことも起こります。
ですから、たとえ発達性トラウマを抱えていたとしても、自分の性格が悪いせいだと思い込んでしまったり、身体の不具合も見逃しやすいのです。
最近では、本人が覚えているかどうかに関わらず、幼少期の体験が大人になってからの生き方にも大きな影響を及ぼしていることが、明らかになってきています。
もし、大人になった今、生きづらさを感じているのだとしたら、もしかしたら何か適切ではない育てられ方の体験があったかもしれません。
発達性トラウマは、たとえ幼少期に辛い経験をしたという自覚や記憶がなかったとしても、身体が覚えています。
トラウマは身体に刻まれる
生きずらさを手放すためのノウハウは沢山世の中に出回っています。
ネットや動画配信、書籍から情報を仕入れて、よし!メンタルを強くするぞ。怒らないようにするぞ。ポジティブ思考になるぞと、向き合ってみてしばらくは良くても、気がつくといつもの自分に戻っていて落ち込むのパターンにはまっていませんか?
なぜ、思考ではコントロールできないのでしょうか?
質問です。
『あなたは箸が持てますか?』
日本人ならば、指先に不自由がない限り何の意識もしないで箸を持ち、つまんで食べることができるはずです。
もし海外の方が箸を初めて持とうとすれば、二本の棒の取り扱いはとても大変です。
そして、使用方法について、親指と人差し指の間に挟んで、中指の力加減は、、、、などと、説明しようとすると、感覚的な身体を使う動作について言葉で表現することが難しいですよね。
『では、今から箸の持ち方を忘れてください。』
と、言われたらあなたは、一生箸の持ち方を忘れ続けられますか?
箸を持つな。
箸は持っちゃいけない。
箸に近づかない。
と思っているうちは、持たずに生きていけるかもしれません。
けれど、箸の持ち方を完全に忘れることはできません。
なぜなら、私たちは意識をすることなく箸を持ててしまうからです。
この、意識しなくてもなんとなく身体が動いてしまうのは、箸を使う動作が『手続き記憶』として記憶されているからです。
記憶には頭で覚えるものと、身体で覚えるものとがあります。
『手続き記憶』とは、身体で覚える記憶で、箸に限らず、歩行、自転車、自動車も意識することなく行動にうつせるのはこの『手続き記憶』で記憶していて、一度獲得すると永続性があります。
私たちはもう、指先の機能が失われない限り、脳機能を損傷しない限り、箸を持てなくなることはないのです。
「手続き記憶」は忘れようと思っても忘れられないのです。
なぜなら、身体が覚えているからです。
すでに誰が、いつ、箸の使い方を教えてくれたかなんて覚えていません。
けれど、箸を持ち始めた4.5歳の頃から、毎日のように箸を持って食事をし続け、習慣として獲得しています。
それと同じように、幼少期に受けたトラウマの感覚も「手続き記憶」として記憶して、その感覚を長きに渡って無自覚に使い続けているのです。
生きずらさの感覚を『手続き記憶』で記憶して習慣化しているのです。
だからこそ、理性ではコントロールできず、変えようと思っても変われない状況ができあがります。
生きずらさの味わい続ける状態です。
あなたのメンタルが弱いからではない。
身体が記憶してしまっているだけなのです。
不適切な育て方は悪ではない
では、不適切な子育てをした親が悪いのかというと、そうではありません。
親もまた、不適切な育てられ方され発達性トラウマを抱えている可能性があるし、その親もまた、そうであった可能性があります。
世代間の負の遺産です。
そして、世代に関わらず、社会における常識や価値観が、発達性トラウマを現代に引き起こしているのです。
近年の日本で言えば、戦争によって日常の中で極度の緊張を強いられたり、親との分離の体験、偏った思想の教養、戦後も競争社会や高学歴、高収入への価値観など、安心していられない状況が、社会にも、家庭の中にもあったはずです。
度合いは様々だけれど、この現代においては、多くの方が発達性トラウマを抱えているのが現状です。
あなただけじゃない。
今、生きづらさがあるとしたら、子どもの頃のあなたに、よくないことが起こったのです。
そして、身を守るための適応戦略を身体に記憶させた。それが、今ある生きずらいという感覚に繋がっています。
生きずらい感覚は、人との関係性を通してやっています。
仕事、ママ友、夫、子ども、SNS上での人間関係、そして何より自分自身に対して、不具合が生じます。
ちょっとした生きづらさを見逃さず、自分の心と身体感覚に目を向けて、解放してあげる。
上っ面ではない『安心』を自分に根付かせていくことが、自分の子どもたちの生き方にも繋がっていきます。
安心していられるかどうかって、すごく大事なのです。
今後も、発達性トラウマについて、身体感覚や自律神経系との関わりや癒し方について発信していきますね。
負の遺産は、私たちの代で終わらせましょう♡
参考:その生きづらさ、発達性トラウマ?ポリヴェーガル理論で考える解放のヒント 花丘ちぐさ著